環境中の微生物やウイルスの生態・多様性・進化をテーマに研究を行っています。研究対象はゲノムから細胞、生態系、物質循環まで、研究手法は野外調査(フィールド)から観察・培養・実験(ウェット)、大規模ゲノム解析(ドライ)まで、そのスケールの幅広さが微生物生態学の魅力です。メタオミクスやロングリードシーケンサーといった新たな手法や技術の登場で目覚ましい進歩を迎えているホットな研究分野でもあります。
私の研究では主に、琵琶湖をはじめとする、国内外の湖を調査地にしています。大自然に囲まれた湖上での調査から、顕微鏡やフローサイトメータを用いた培養や分子生物学実験、スパコンを駆使した大規模環境ゲノム解析に至るまで、一貫して行うことが自分の研究の強みであり、面白さであると考えています。元々は湖の微生物の多様性や生態、また彼らが物質循環や食物網の中で果たす役割を明らかにする目的で研究を始めましたが、最近は「湖」という生態系ならではの特徴を活かして、生物・ゲノム・遺伝子の多様性の源泉や進化の原動力を探るような研究にも興味を持っています。特に、高解像度なサンプリングと、高解像度な環境ゲノム解析技術を相乗することで、これまでの環境微生物研究では叶わなかった、種内で今まさに起こりつつあるゲノムの多様化(microevolution)の種間網羅的な比較解析に挑戦しています。
学生の皆様へ
見学希望や質問等、随時受け付けています。興味がある方はまずはメールでご連絡ください。
入試案内については化学生命科学領域(緒方研究室)のウェブサイトをご覧ください。
研究室で取り組んでいるテーマの中で、私は以下のような内容での研究指導を得意としています。
- メタオミクス解析を駆使して環境中の微生物・ウイルスの多様性と生態を解き明かす研究
- 環境中の微生物・ウイルスのゲノムを超高解像度に解析し、ゲノム進化の源泉に迫る研究
- 水圏の難培養・未培養の微生物・ウイルスの分離培養に挑戦する研究
- 高頻度・高解像度なフィールド(湖)調査で微生物生態系の時空間的なダイナミクスに迫る研究
- 水域生態系・物質循環における微生物やウイルスの機能にゲノム解析と実験の両面から迫る研究
(湖沼の)微生物生態学の重要性やその面白さについては、こちらもご覧ください↓
- 環境中の細菌を研究する
- 微生物の研究の面白さを伝える
- ゲノムから地球規模の循環まで。湖に棲む微生物を多角的に探究する。(京都大学学内ファンド「くすのき125」インタビュー記事)
- 湖沼の微生物生態系が教えてくれること (日本微生物生態学会誌)
- 一杯の湖水に秘められた難題 (生物工学会誌 バイオミディア)
- 大水深淡水湖のユニークな微生物生態系 (海洋化学研究 月例卓話)
これまでに取り組んできた主な研究
こちらをご覧ください。
現在取り組んでいる主な研究
湖沼微生物環境ゲノム情報基盤の構築
(主にJST創発的研究支援事業を受けて実施)
全国の大水深淡水湖から真核生物・原核生物・ウイルスの全DNA・RNAサンプルを採集し、湖沼の微生物とその遺伝子の多様性を網羅した、大規模環境ゲノム情報基盤の構築を進めています。特に琵琶湖においては2水深・12か月・にわたる時空間的な調査を行い、ショートリードによる通常のDNA・RNAシーケンスに加え、ロングリードメタゲノム解析を行っており、高網羅度・高品質な環境微生物ゲノム情報の集積を進めています。得られたデータは、先端的なバイオインフォマティクスを駆使して多様な切り口から解析し、環境微生物の多様性・生態・進化に迫る研究の基盤として活用していく計画です。特に、それぞれの湖を生態系の「replicate (反復)」や「control (対照)」として捉え、その微生物多様性を高解像度に相互比較することで、集団内・時系列間・湖間での1塩基解像度でのゲノム多様性の解明や、それらの系統間での共通点や差異から炙り出される、微生物ゲノムや遺伝子の多様性の生成・維持のメカニズム、およびその進化的な背景に迫る研究に興味を持っています。
大水深淡水湖に特有の細菌の単離培養への挑戦
(主に京都大学創立 125 周年記念ファンド「くすのき・125」を受けて実施)
これまでの研究で、大水深淡水湖には独自の微生物多様性・微生物生態系が存在することが示され、FISH法、16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンス、メタゲノム解析等の培養非依存的なアプローチによってその生態の実像に迫ろうとしてきました。しかし、現存量の変動やゲノム情報から推測される生理・生態的特性は仮説に過ぎず、単離培養株を用いた実験的な検証が望まれます。また単離培養株を獲得することで、それに感染するウイルスの単離や、多様な環境ストレスへの応答を検証することも可能になります。しかし、これまでに注目してきた深水層特異的な細菌系統のほとんどが培養株が確立していない難培養系統で占められています。現在進めている研究では、多くの貧栄養性の細菌系統の単離で実績をあげてきたハイスループット限界希釈培養法を用いて、湖沼の難培養細菌、特に深水層に特有の細菌系統群の単離に挑戦しています。
シングルセル解析技術を用いた湖のウイルス-宿主ペアの網羅的同定
(主に科研費若手研究を受けて実施)
これまでの研究では湖水中の細菌と、それに感染するウイルス(ファージ)のゲノム情報を網羅的に収集してきました。しかし、どれだけ多くのウイルスゲノム情報が得られても、その宿主が分からなければ、そのウイルスの重要性や機能を評価することはできません。ゲノム情報から宿主を予測する方法にも限界があり、ウイルスと宿主、それぞれの充実したゲノム情報が手元にありながら、それを結びつける情報が欠けている、という問題がありました。本研究では、早稲田大学竹山研究室と共同で、湖水中の細菌を1細胞ずつ分取しゲノム解析するシングルセル解析技術を用いて、宿主細胞内で増殖中のウイルスゲノム断片を検出することにより、これまで叶わなかったウイルスと宿主のペアを非選択的かつ網羅的に同定する研究に挑戦しています。さらにシングルセル解析では、上述した高解像度なメタゲノム解析を用いても解析が困難な極めて多様性の高いゲノム領域が復元可能であり、メタゲノムでは到達できなかった解像度で集団内のゲノム多様性の解明を試みています。
その他の共同研究
これまでに開拓してきた各地の湖へのアクセスと、すでに採集済みのサンプル・膨大な環境ゲノムデータ、またその解析を手掛けてきた知見と経験を活かして、分野にこだわらず様々な研究者の方と共同研究を進めています。すでに論文として公開されている成果も多くあるほか、湖の真核微生物や巨大ウイルスのゲノム解析、有機物動態に関連した地球化学的なテーマでの研究にも取り組んでいます。湖のサンプルや微生物の環境ゲノム情報に興味がある方や、面白い研究アイデアをお持ちの方は、ぜひお気軽にお声がけください。