琵琶湖深水層で優占するCL500-11系統の細菌
琵琶湖深水層での優占が見つかったCL500-11系統の細菌は、これまでに知られている浮遊細菌には知られていない、以下のようなユニークな特徴を持っています。
湖沼の有酸素深水層に適応した系統として初めての報告である
2年間にわたる琵琶湖沖での調査により、CL500-11の現存量は以下のような規則的な変動を示すことが明らかになりました。
- 湖水が鉛直混合する冬季の現存量は検出限界以下
- 春に湖が成層(深層と表層の水塊が分離)すると、深層で増加
- 11月~12月の成層期末期に現存量が最大となり全細菌の15%程度を占める
- 冬季鉛直混合が始まると現存量は減少に転じ再び検出限界以下となる
これらの傾向より、CL500-11は成層期の深水層の環境のみに適応した系統と見られます。淡水の浮遊細菌で、季節的に出現する有酸素深水層に適応し、このように周年的に優占する系統の存在が明らかになったのは、本研究が初めてです。
湖全体の物質循環に大きく寄与している可能性が高い
CL500-11の細胞は長さ1-2 μmと、浮遊細菌の中では大型で、顕微鏡画像の解析より、現存量が最大となる11月~12月では、深水層の細菌バイオマスの30%以上を占めるとみられています。琵琶湖では水深およそ30 m以深の深水層が湖の体積の過半を占めることから、CL500-11は成層期の琵琶湖全体において、最もバイオマスの多い細菌系統であると考えられます。また上述のように、CL500-11は周年的にダイナミックな現存量の変化を示します。以上のことから、CL500-11は、深水層の物質の代謝・伝達に大きく寄与していると推察されます。
表層の細菌系統とは「門」レベルで異なる
CL500-11はChloroflexi門という分類群に属しますが、一般的に淡水の浮遊性細菌は、Proteobacteria門、Bacteroidetes門、Actinobacteria門に属することが知られており(Zwart et al., 2002; Newton et al., 2011)、CL500-11が属するChloroflexi門が優占するという報告はこれまでにほとんど報告がありませんでした。さらに、Chloroflexi門は一般的には嫌気環境や高温環境に生息する糸状細菌として知られていますが(Yamada and Sekiguchi,2009)、CL500-11はこれらの特徴をいずれも欠いていることから、その代謝様式や生態について、独特の特徴を有していると考えられます。
※引用文献
- Okazaki et al. (2013) FEMS Microbiol Ecol 83: 82-92
- Newton et al. (2011) Microbiol Mol Biol Rev 75:14–49.
- Zwart et al. (2002) Aquat Microb Ecol 28:141–155.
- Yamada and Sekiguchi (2009) Microbes Environ 24:205–216.